人って皆、欲が強いよね。
しかも独占欲も強い。
しかも男の僕に対してそんな感情、愚かしくて笑われちゃうってば。
でも、そんな愚かな人達でさえ、僕は愛しくて。


「もう嫌なんですけど。」
激しく困った顔で、ため息をつく。
容姿端麗、頭脳明晰。
若いです。上忍です。可愛いってよく言われます。人気です。頭も良くて顔も良くて、
悪いところなんて…あ、優柔不断って、よく言われます。

「アスマ先生?でしたっけ??あの先生なんなんです?もう疲れちゃった!」
の横では、横からガン見のイルカ先生。
「"でしたっけ?"って…。好きなんでしょう?君のことが…。」
オレもなんですけどね、なんて照れてみるイルカ先生を軽く流し「そんなことは知ってます。」とあっさり言う

あっさりなのもその筈、は木の葉一人気な上忍。
自身、自分はモテると自負しているのだった。
そして色々な忍からのアプローチの雨と日々葛藤中なのだ。

「でもね、アスマ先生って紅先生を好きなんでしょう?僕にまで手ぇ出して大丈夫なんです?」
「さぁ〜…知りませんけど…。それより、あの、どうです?今夜オレの家にでも…」
「あーごめんなさい。僕、7斑の査定して報告書かかないといけない身なので…。」
残念なことこの上ないという顔のイルカに"またいつか"と残念そうに笑ってその場を立ち去る。

「…そーいうとこ、ダメなんじゃない?」
イルカのいた部屋を出た途端に低い声がする。
「カカシ先輩?やだなぁ、聞き耳ですか?」
すぐ傍の向側の壁によりかかっているのはを好きだと言いに言いよる一人だった。
「お前は本当に優柔不断だね?期待しちゃうんじゃないの?イルカ先生。」
「別に、誘いは嫌じゃないですからね。それより、迎えに来てくれたんですか?」
カカシが3代目から預かった査定の調査書を受け取りながら、はカカシを見上げる。
まだ成長しきっていないともうすぐ三十路の列記とした大人のカカシでは、
慎重差故にベタな上目遣いになってしまう。更にベタなことに、上目遣いに弱いカカシ。
いつもなら、このままカカシがを口説き始める。

「さて、じゃあ行くよ。」
無関心さながら、口説くことも見つめることもせずに歩き始めるカカシ。
は"はて?"と思いながらも、一緒に歩き始める。



「いつもどおりでお願いします。」
「え!?」
お言葉に過剰に反応したカカシ。
「い、いつも通りって言うのは、その…いつも通り…口説いて欲しかった?っていう…?」
「え?違います。任務です。どうしたんですか?」
「あ、そーなの、あ、そー…」
残念そうな顔を隠しつつ、カカシはナルト達に任務の説明を始めた。

「(わかってるけどね、どうせ"押してダメなら引く作戦"とか、"今度こそあきらめるよ"とかそんなのだよね。」
しかも一度も成功したことがないのに、なんでまたやるのかなぁ…と疑問を抱きつつ、はカカシが説明を終えるまで横に立って調査書に目を通す。

「ま!そんな感じだから。軽いでしょ?君達なら。」
「あったりまえだってばよ!」
ナルトの元気な声に口元が綻ぶ。
カカシは説明を終えを捕まえて木の木陰に移動した。
「あのね、今日はちょっと話が…って、何してるのかな?君。」
「あ、すみません。って何謝ってんの僕。あのですね、僕も任務ってことでここにいるので。査定です、査定。」
「あーオレのでしょ?ならオレの傍にいれば良いよ。」
「え、いつも手伝わずにこんなとこで怪しい本読んでんですか?」
「手伝うことこそダメでしょ?」
子ども達の成長のためじゃないの、とカカシがを引っ張る。
「アンタって人は、もうその左目抉ってやりたいんですけど。話はさっさとお願いします。」
カカシの隣にストンと座るとの表現もできない良い匂いに、カカシはくらっとなりそうになる。
しかし、そうなるわけにもいかないわけで。
「あのね、オレはもう、お前をあきらめようと思う。」
「あ、やっぱり?ありがとうございます、これで苦労の種が一つ減ります。」
笑顔で"精進します、じゃ任務なのでー"と立ち上がろうとするを、「ちょっとちょっと待ちなさいよ!」とあわてて止めるカカシ。
「なんです?僕この後シカマルとお茶する用事があるので、早く査定済ませちゃいたいんですよね。」
「…あのね、オレはそーいうの優柔不断なところに限界を感じたんだよ?」
「はぁ…。っていうか僕、男に興味はないんですけど…」
「は?そうなの?なのに皆にあんな…気のあるフリして…?悪魔だねお前、死ねば良いのに。」
「それはちょっと酷くないですか?僕は誰とも付き合わないし誰もふりませんよ。それが皆幸せでしょ?」
カカシが一瞬固まる。

「自分を選んでくれないことも、他のやつと仲良くされることも不幸なのに、そんなこと言うの?」
「…嫌だなぁ、僕はいつまでも皆と仲良くしたいんです。」

不意に立ち上がったは、太陽の光を背にしてカカシを見下ろし笑顔で言う。
「皆が僕を好きな限り、彼女も一生作りません。皆泣くから任務で死んだりもしません。皆が僕みたいな優柔不断は死ねっていうなら、笑顔で死んで見せます。」
だって、ただ一人を選んで他を捨てるなんてこと、僕には出来ないです。選ばれた人以外は不幸でしょ。
皆案外、それを望んでるから優柔不断な僕をいつまでも好きなんですよ。



(民のためならば 命をも投げ出すと、言う)