マリクの主人格の計画の手解きの為、オレはマリクと共にバトルシップに乗せられた。
闇のマリクが目を覚まして、リシドが倒れて、それからあまり経っていないはずだ。


「貴様、何をしている。」

バトルシップのデッキで夜風に吹かれていると、海馬がいつの間にかオレの後ろにいた。

「ちょっと、夜風にあたりに、ね。」
そういうと不意に海馬がオレの肩を抱く。
「・・・マリクに何かされたのか?」
「なんで?されてないけど・・・?」
「いや、それなら良い。貴様の体が少し震えていたのでな。」

海馬は、優しいところもあると思う。カードバカではあるけども。

「ちょっと寒くなっちゃって。」
だから気にするな・・・と海馬に笑いかける。
「寒いのならばオレのコートを貸してやろう。」
海馬は自分のあのハリガネでも入ってるんじゃないかと思うコートを脱ごうとする。

それ、袖なしだよ、と突っ込む前に、オレには言うことがあった。

「ごめん、ありがとう。でももう行くから。」
そう断ると、心なしか海馬の表情が曇り、コートを脱ぐのをやめオレの肩を抱く力を強める。
「・・・マリクのところ、か?」
「あぁ。よくわかったね。」
「何故、あいつのところへ行くんだ。オレのところに来い。オレが・・・」
オレは、海馬の言葉を遮って続ける。
海馬の気持ちなんてわかりきってるけど、聞いちゃいけない。
聞いてしまえばそれで終わりだ。

「でも、オレ、マリクの部屋に行かないと。」
出来る限りの笑顔で、海馬をなだめようと努力する。
「・・・何故だ?」
「今夜は、マリクがデュエルを教えてくれるって・・・そう言ってた。」
「何故、マリクじゃなければいけない?オレの方が上だ。なのに・・・。」

「・・・上とか、オレにはわかんねーケド、マリクと約束したから。」

また今度な、と言ってオレは半ば無理矢理海馬の腕から逃れ、マリクの元へと歩き出した。
背中に感じる海馬の視線は無視する他はない。
振り向くことは許されない。


マリクの部屋へ行くと、マリクはベッドに座って外を眺めていた。

「ごめん、ちょっと遅れた。」
「・・・海馬はなんだってぇ?」
「いやぁ、オレのところに来いって・・・って、なんでわかったんだ?」

そう聞くとマリクはフッと笑い、オレに手招きをする。
オレが近づいて行くと、マリクに腕を掴まれて身体を引き寄せられ、耳元で囁かれる。

「きしゃまのことは、全部お見通しだぁ・・・。」

いつもより低く小さい声色に一瞬ドキッとして、そのままスルッとマリクの横に座る。
「じゃあ、オレがちゃんと来るってこともわかってたはずだよな?」
ヤキモチなど妬かれてこの身に傷でも負わされた日には、海馬とお前の激戦が目に見えているのだ。
こんな激戦は見たくない。どちらが勝つかなんてのも、想像したくない。
「さぁ、それはどうだろうねぇ・・・。」

マリクは嫌な苦笑いをしながら、
「なんせ、きしゃまは人を誘惑して歩くからねぇ。
いつどこぞの馬の骨に喰われてもおかしくねぇだろうよぉ。」
「オレが海馬と寝るのを選ぶと思った?」
そもそもお前とも誰ともそういう意味で寝る気はさらさらない。
貞操は捧げることも大事だが守っておくのもまた大事なんだ。
マリクの顔を覗き込むと、ニヤリと笑いながら、
何故か・・・いや、理由はわかるがニラまれた。

「あのまま、海馬瀬人のところにいても良かったんだじぇ?」
「・・・本当はもどってきて欲しかったろ?わかってる。」

オレだってお前のことはお見通しだ。
わかってる。実はお前が一番寂しがり屋だってこと。



(何故だかそれは憎めなくて)