少し世界が広がっただけで、そこから光の速さで世界は広がっていく。
その速さが僕は怖い。

「っくしゅん・・・。あ、やっぱり熱ある・・・。」
昨日雨に濡れたまま雨宿りをして、さらに人にタオルを貸したので自分は濡れたままだった。
きっとそれが身体に悪く、今38.4℃という熱をたたきだしたのだろう。
今日はおとなしく学校を休むことにする。

「はぁ・・・なにか食べ物・・・消化に良いものあるかなぁ・・・。」
だるくて重い身体をユラユラと引きずり、台所の冷蔵庫を開ける。
途端に頭痛は酷くなる。
何故なら「あれ?・・・か、からっぽ・・・。あ、そーか、昨日雨で買い物行ってないんだ・・・。」
ということだからだ。
一人暮らしで少し面倒なところは、自分で買わなければ食べ物はないというとこ。
家族で住んでれば、他の家族や大方母親が何かしらの食べ物を買ってきている。
これは・・・やっぱり、買いに出ないと何も食べれないということで、
1.2Mでも歩くのが辛い今の僕にとって、50M先のコンビニに行くのでさえ地獄なのだった。

「あぁ、くそ・・・しかたないか・・・。」
僕はしょうがなく適当に着替えて財布をもって外へ。
僕の家は叔父が持っているマンションの一室。
別に特別高級なマンションでもなく普通の普通。
階は3階なのだが、なにせマンションは7階建てなのでエレベーターがある。
僕はエレベーターの壁にへばりつきながら、1階につかなければ良いのにと願った。
勿論そんな願いが叶うわけもなく、むしろ必要な買い物に出てるわけなので願うこと自体がお門違い。

コンビニまでは地獄のロード。
もう学生の登校時刻はゆうに過ぎているし時間も時間で、通行人は少ない。
普段は近いはずのコンビニはまるで長距離走のゴールのごとく遠く感じられた。
コンビニで適当に弁当を数個とパンを数個買いあさって、また地獄のロードを通り僕は家に戻る・・・はずだった。

帰り道の最中、もうマンションもすぐそこ・・・というところで、少ない通行人の一人に派手な男を見た。
薄い金髪。褐色の肌。顔の変な刺青。逆立った髪。はためく長いマント。
オレをガン見する、紫の目。
道の壁によりかかり腕組をし、オレを見ていた。
オレは派手な風貌の男をちらりと見ただけだったのに、一瞬で目があった。

「良かったぜぇ、すぐに会えてよぉ。」
聞き覚えがあるような声だった。
でも思い出せない。誰だったか。知り合いじゃない。
でも本当に聞き覚えが・・・。あぁ、昨日の、闇が大好きな、男だ。

「だ、誰ですか・・・?」
あぁ、昨日の人!・・・なんて言うのは、僕の世界を広げてしまう罠。
誰です?僕アナタなんて、知らないよ。

「冷たいねぇ。昨日はタオル、助かったじぇ。ほらぁ。」
いきなり僕の腕に真っ白だったはずのタオルを返還される。
そのタオルは血で染まっていて、ところどころに汚れた白が残っていた。
「・・・っ!な、なにこれ・・・。」
タオルは確かに僕のものだった。
「おい、・・・オレを家におく気はないかぁ?」

突然の申し出。まず一般論を言わせてもらうと、さらさらない。・・・だと思う。



地獄のロードは果てしなく
(ゴールはもう目の前だったのに)